映画:イサム・野口の母の生涯「レオニー」の感動
広島でイサム・野口と言えば多くの人は“平和大橋”と応える。
原爆慰霊碑を設計の丹下健三と並ぶ知名度の高い世界的に著名な彫刻家であり芸術家だ。
その彼の母の生き方を追った日米合作映画「レオニー」の試写をみた。夜9時からのスタートにも関わらず50人を超えるマスコミ関係者の参集で、改めて関心の高さを知った。
松井久子監督(63)の戦争花嫁となった日本人女性を描いた「ユキエ」介護問題をテーマに百万人動員の『折り梅』に続く第三作。イサム野口の伝記を読んでレオニーの生き方に感動し、6年の歳月と13億円を掛け、完成させた大作だ(2時間16分)
20世紀初頭のニューヨーク。大学を出たレオニーは詩人で大学教授野口米次郎に編集者として接するうちに恋に落ち、身籠る。だが、差別や偏見の米国に壁壁のヨネは突然、日本に帰国する。
男児を生んだレオニーは、子どもの将来を思い、日本に向かう…。日本のヨネには妻がいた。レオニーは妾的存在に嫌気がさして、ヨネと離別する…
しかし、母は日米の文化の狭間で、並はずれた息子の芸術的才能を見出し、米国で医師を目指した息子に“芸術家の魂”を注ぐ…。
津田塾創設の津田梅子や小泉八雲の妻等が顔を出す設定は時代を理解する手助けだ。
しかし、百年前の日米を舞台に、極めて困難な時代に自らの意志で日本を訪れ人生を切り開く米国人女性の健気にも力強い生涯を、諄々に静かに感動的に描いている。
この映画は米国人の立場から日本を見つめ、時代と差別と貧困などを大胆に取り入れた百年前の日本を透かして見た…作品だ。しかし、決して苦難や悲運に立ち向かうヒロインとして描かれてはいない。
知的で情熱的な女性として母として一生を生き抜く姿に心をこめて描かれている。
それは百年ではなく今に置き換えられる社会問題が秘められている…?。
松井監督は百年をフィルターに今の日米関係や世界との繋がりを暗示しているようにも思われる。
映画「レオニー」は時代を超えた日米や世界との関わりを改めて考えさせる、時代検証的な意味合いを強く持つ秀作だ。じんわり押し寄せる感動が堪らない…。
生意気を言えば、広島でもイサム・野口を知る人は中高年に限られている。
映画の重要な要素の一つは『タイトル』にある。『レオニー』では解説の必要がある。
敵わぬ夢ではあるが、出来るものなら一般公開,までに「日米の狭間で生き抜く女性」「恋は人種や国を超える」「愛が天才を育む」等を強く連想させる『米日の谷間のユリ』『恋と憎悪が育てた天才』なども、もっと何も知らない映画フアンを巻き込める魅力的なタイトルを期待したい…。
こんな思いを抱かされる見応えのある作品だ。
監督の思い入れと時代を超えた人の思いを、ゆっくりとじっくりと心に刻む作品だ…。
全くの余談だが、イサム・野口は李紅蘭で知られた女優の山口淑子さんと結婚し、香川の石切場にアトリエを持って広島へも度々足を運んでいる。
因みに、原爆慰霊碑のデザインにも挑戦し、一旦は採用に成るが「原爆投下国の人間の作品」と言うことで外され、丹下健三の作品が選ばれた歴史経緯は余り知られていない。
ただ、丹下の作品はイサムの作品が下敷きに成っている…と言われている。
慰霊碑の不採用の代わりに東西の平和大橋のデザインが依頼されたのか…?
また、彼は後年、米国大統領の慰霊碑を設計した事もあるが、逆に日系であると云う理由で却下された。
戦争を挟んで生じた日米混血児に降りかかった災難は、逆に彼を更に大きな芸術家に育てた。母レオニーの先見性が改めて輝かしい…。
こうした歴史の流れを考えた時に、最後に『平和大橋』のカットが欲しい…と思うのは私だけではない…と思う。
オバマ大統領、来広の機会には「原爆慰霊碑建設の裏話」として紹介されても良かろう。
上映問い合わせ:11月20日(土)~新天地:シネツイン②=中区新天地 082-246-7787
<特別・前売りチィケット> 広島映画センター=1000円:082-293-1119
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