映画「若者たち」の時代といま。
シネマクラブひろしまの1月のワンコイン上映会で’68年(昭和43年)制作の映画「若者たち」を上映した。鑑賞した20人余の中に3人の米国人がいたのは異例で、上映後の歓談で熱心な質問も大変面白く楽しかった。
この映画は’67年にフジテレビが山内久の脚本でTVディレクターの森川時久が初監督のコンビで田中邦衛、山本圭、佐藤オリエなど俳優座を中心に新劇陣が総出で制作された。
テレビの黎明期の放送で社会問題を両親がいない5人兄弟の家庭生活を通じて描き大好評を得て映画化された。しかし、大手映画会社が尻込みしたため、自主配給で上映されてヒットし、3部作まで発展して300万人から400万人を動員した…。
白黒作品で上映時間は97分。
時代は’64年(昭和39年)東京オリンピック直後で高度経済成長と生活向上が図られたが公害が多発し長時間労働と引き換えに車にカラーTVが普及し豊かさを享受した。
映画の中の一家は戦中戦後に亡くなった両親の代わりに教育を十分に受けられなかった長男が兄弟を育て、運転手の二男が支える。大学に入るが学生運動にのめる三男。原爆被爆者を好きになる長女。大学受験に嫌気がさしている末っ子の四男。
「かたわが生まれたら苦労するのはお前だ」と被爆者と付き合う妹に言い放つ長男に三男は「かたわの子が生まれる確率は99%ない…いつ交通事故に遭うかもしれない世の中だ」と反論して妹をかばう。
当時、原爆病は感染する、かたわの子が生まれるなどと被爆者に対する差別的な噂が流れ広島・長崎以外に住む被爆者は極力被爆者である事を隠すなど孤立させられる状況があった。映画はこうした社会的背景に留意して敢えてこの問題をクローズアップさせている。
また、人間の価値が「損・得」の金に換算される風潮が生まれる中で、苦労して来た長男は「金の大切さ」「学歴の大切さ」を口にして三男と対立する。
「金より人間が大切だろう」と札を燃やす弟。
当時の「幸せって何?」をテーマにしているが派遣労働者が解雇され寒空に放り出される今の時代。小林多喜二の小説「蟹工船」や映画に人気が集まる時代。「若者たち」が今の鏡のように見えるのは強ち不思議ではない。2、3部同時に見たい衝動に駆られる作品だ。
最近はこれほど社会的問題意識を明瞭にかざした映画は少ない。
一挙上映の機会が出来れば…と期待するが…。難しい…?
問い合わせ:広島映画センター <広島市中区堺町1‐2‐9 貴志ビル1F> 082-293-1119
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