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2008年11月30日 (日)

生き残り…63年目、初めての被爆証言

 今年8月6日の広島原爆忌に、母校(広島大学附属高等学校)の同窓会の要請で、被爆体験の話をしました。これまで私は、一度もヒロシマを語ったことはありませんでした。でも、明治時代に建てられた古い校舎の最後の日に居合わせた者として、その模様を語ってほしいと頼まれました。
 これまで私が語らなかったのは、2つの理由からです。1つは「思い出したくない」からです。もう1つは「語る資格がない」と思っていたからです。
 たしかに私は、母校が旧制中学校であった時、4年生として校舎の中で原爆に遭いました。しかし、命が助かるとすぐに郊外へ逃れることができました。広島には係累がほとんどいなかったからです。
 ところが地元生え抜きの市民は、自分が助かった後も、行方不明の肉親を求めて、市街地の焼け跡を何日も歩き回りました。その苦労を体験した人こそ、ヒロシマを語るべきである、自分にはその資格がない、と考えていました。
 ただ、原爆をめぐって、伝えたいことがないわけではありません。それは、人間の煩悩ということでした。それは、いかなる煩悩なのか。
 広島県立広島第一高等女学校(広島県女、現在の広島皆実高等学校)の1年生は、ほかの中学校や女学校の1年生ともども、家屋疎開作業に動員されて被爆、多数の犠牲者を出しました。しかし、当日欠席して、死をまぬがれた生徒もありました。娘を失った親たちは、生き残った生徒がいたことに、割り切れぬ思いを抱きました。
 助かった生徒は生徒で、まわりから「生き残り」と呼ばれ、つらい気持ちで戦後を過ごしてきました。私の妻もその1人でした。
 助かった生徒が級友を死なせたわけではないのに、親たちはなんとなく認めがたいものを感じたのでしょう。生き残った側も、親たちと交流するのがはばかられます。人間の煩悩というほかはありません。
 母校で営まれる慰霊祭でも、三十三回忌の頃までは、互いの対話がないままに過ぎました。しかし14年前の五十回忌になると、90代を迎えた親たちに変化が起こりました。親たちの方から生存者に向かい「あなた方は、亡くなった娘の分まで生きて、幸せになって下さい」という言葉が出たのです。その言葉が出るまでに、50年が必要だったということになります。
 さて、私たちの母校のことに移ります。当時私たちは、校内に特設された「科学学級」で学んでいました。大部分の同級生は戦時中の勤労動員で校外にいましたから、学校に残っていたのは、科学学級の26人だけです。
 閃光とともに、古い木造校舎はひとたまりもなく崩れました。二階の教室にいた私たちは、材木の間から次々に這い出しました。ところがただ1人、加藤君という級友が梁の下敷きになって即死したのです。級友たちは加藤君を掘り出し、遺体を防空壕に安置してから逃れました。やがて火の手が迫り、校舎は焼失しました。
 26人いて、25人まで助かり、ただ1人即死した加藤君。遺族としては、たまらない思いだったことでしょう。ところが加藤君のお父さんは、一言も恨みごとを言いませんでした。「原爆の犠牲者で、行方も知れない人が多いのに、うちの息子は級友の皆さんによって掘り出していただいた。有り難いことだ」と、むしろ感謝の言葉を述べられたそうです。そして戦後、私たちが授業を再開する時には、その資金として多額の寄付をして下さったと聞きました。
 そのことを私は、同窓会の席で感謝をこめて話しました。
 私の拙い話は、DVDに収められていました。そのDVDを見たいという人がありました。知人の、早稲田大学教授一家です。高校生の娘、中学生の息子と4人で見たと言い、その感想が夫人から送られてきました。同封のコピーはそのお便りの1枚目です。お許しを得て、1枚目だけをお目にかけることにしました。
 語る資格のない私が語ったヒロシマにも、なにがしかの意義があったとすれば、有り難いことだと存じます。

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